「神慮の機械さんのデレマス二次創作小説を勝手にベースにして書いた三次創作小説」と言うの名の習作の完結編

なんか書いた。主に自分がすっきりするためのモノ。

維如星さんが正式に続きを書かないと宣言された(んですよね?)ので、万一のネタ潰しを考えずに済むという。

習作としては、観客の視点から、ダンスの描写と二本書いて、歌の描写についても練習しておこうかなと言うやつ。でもその方向からはうまくできてない感じですが。

舞台をあの世界のみく李衣菜がデビューしたての時にしてみました。つーか佐倉こういう話が好きすぎだろと言う。

癖で広げられる方向に追加登場人物を配置してますけど、この世界観で書くのは最後です。

実は三次創作と言いつつ、過去に企画していたライブバトル物を元にしている部分がありまして。神慮の機械さんの奴見た瞬間に、あ、ぼつった。と思ったやつなんですが。その供養を兼ねて、そこから一個エピソードを持ってきた感じです。いや、企画してたのはむしろ応援する側のバトルだったんですけどね。箱付きアイドルのオタと対バンで乗り込んできたアイドルのオタとのオタ芸バトル的な。知っているのか雷電的な奴。

今回は実は自分でも判っている矛盾を解消し切れてなくて、最初ギター無しの計画であればオケにはギターの音も含まれているわけで、電源云々よりまずオケ何とかしないといけないはずなんですけどね。
まあその辺は雰囲気重視と言うことで。

—-

「おい、そこ。何やってる!」
舞台の上に上ったみくと李衣菜に向かって怒鳴り声が投げつけられた。
驚いて顔を上げたみくの視線にはミニチュア・シュナウザーのような顔つきをしたエンジニアが全身に怒りを纏って立ち上がっているのがうつった。
とっさに右隣の李衣菜を見る。彼女は舞台後方のギターアンプを向き、プラグを手に肩を縮めて固まっていた。
「あ、おやっさん!」
若い男が静止する声に続いて、おとぎ話の水夫のような容姿の気配がブースから舞台までフロアーを突っ切って迫ってくる。
一瞬うなずいた李衣菜は、さっとターンすると眉を上げて睨んだ。
プラグを掲げて見せる。
「お前、何歳だ」
思っていたより大柄なエンジニアが舞台の下から聞いた。
「17」
李衣菜は声に反抗心を込めつつ虚勢を投げつける。
「昨日までママのミルク飲んでた奴にゃまだわかんねえ事のようだな。今日は特別に教えてやる」
彼はそう言うと顔をみくの方に向けた。
「ライブとは何だ。言って見ろ」
飛んだとばっちりを受けたみくは、それでもきょとんとした目で自分を指さす。
彼は特に反応を見せずに睨んだままだったのでみくは覚悟を決めて、
「あの。歌とダンス、と。あと、トーク。だと思います、にゃ」
最後の要素はあまりに反応が無いので付け足して言った。徐々に付け足していった語尾が戦況を物語っている。
男はみくから視線を李衣菜にうつしながら、フンと鼻で笑った。
「違うな。ライブとは電気だ」
思わず李衣菜を見る。彼女はみくと同じように怪訝な表情をしていた。
「お前らの持っているマイク。キーボートやエレキなどの楽器。それから照明に舞台装置。電気がなければどれ一つ、何の役にも立ちやしねえ。だが電気は限られた資源だ。だから最大の効果を生むよう割り振る必要がある」
李衣菜の表情が変わった。目がこちらに何かを訴えてきた。
けれど思い直したのか、よりこめかみに力を込めて、エンジニアをにらみ返した。
「私は。私たちは楽曲を一番いい状態で届ける責任がある」
「そりゃそうだ」
李衣菜は男の言葉に表情を解きかけた。けれどもすぐに緊張を戻さざるをえなかった。
彼は客席とステージを区切る柵に手をかけ乗り越えて登ってきた。
「板【舞台】の上はあんたらの領域だ。栄誉も責任もあんたらのもんだ。だがな、そこから客席へその心意気をロス無く伝えるのは俺たちエンジニアの仕事だ。あんたらの栄誉を守るためには妥協は許されねえ。違うか?」
「李衣菜。もういいにゃ。当て振りでいこうにゃ」
思わずそう声に出してしまった。
泣き顔に変わりつつあった李衣菜が、瞬時に顔を向け、睨んだ。
「!みく、あの時の――」
そう言いかけた李衣菜の声は、
「電源使用計画書。何て書いた」
という男の声に止められた。李衣菜は再び視線を男に戻した。けれどその表情は反抗と言うより懇願に変わっていた。
「ワイヤレスハンドマイク一本、ヘッドセット一式。です」
「ならそれでやれ」
それを聞いたみくは急に体中の血が動き出したのを感じた。
「気が変わった、絶対エレキ使うにゃ」
李衣菜の視線が向き、男が振り向く。
みくは自分で驚くほど強い口調で言っていた。歯を食いしばり、眉間にしわを寄せ男の視線にぶつける。
しばしにらみ合ったまま黙っていた男は、表情を変えずに
「アンプ、照明、返し。オミットするものを一つ選べ」
と言った。みくは食い気味に、
「返し」
と答えた。舞台へカラオケと自分たちの歌声を伝えるモニタースピーカーを使わないと即答したみくに慌てて李衣菜は、
「ちょ、みく」
と声を出す。
「他に選択肢はないにゃ!アンプ切るなら当て振りとおんなじにゃ」
照明はもちろん言うまでも無い。
「それはそうだけど――」
李衣菜の弱気な口調が気に障る。
「元はと言えば李衣菜がふっかけたけんかにゃ!なんで弱気になってるにゃ!」
「けんかふっかけたわけじゃないよ、約束が――」
「約束とかなんとかなんか知らないにゃ!新人だからって言ってナメた口聞いてくるジジイが気に入らないにゃ!」
「まってまって、落ち着いて。聞こえてるっていうか目の前にいるから!」
「目の前にいるから言うのにゃ!みくは陰口は大っ嫌いにゃ!」
抱きついてみくを黙らせようとする李衣菜を両手で拒絶して答える。
「おい、フロアモニターを全部切れ。それからギターアンプ用に9番のワイヤード」
男はそんな二人を無視してPAブースで見守っていた若手に男が指示をする。そのまま柵に手をかけ客席に降りた彼は背中を向けたまま立ち止まり、
「時間は押しているが特別に一曲丸々リハさせてやる。すぐ準備しろ」
言い終わり、ブースに歩いて行く男に、みくは人差し指でべっかんこうをして見せた。
「いちいち言い方が偉そうな奴にゃ」
「偉そうじゃなくて偉い人なんだってば。っていうか返しはないとまずいよ」
舞台下手袖からスタンドと有線マイクを持って登場した若手がギターアンプ前でセッティング始めたのに気がついた李衣菜は、抱きつこうと伸ばした手を下ろして、自分のギターに駆け寄りながら続けて言った。
「オケの音とれないし、タイミング合わせられないじゃん」
「そんなものは根性で反響音聞いてなんとかするにゃ」
李衣菜はその言葉を聞いて不安そうな顔を浮かべながらもギターを持って立ち位置に戻った。

***

「はい。準備の方が終わったようなので、次のグループの登場です」
幕の向こうからMCの声がかすかに聞こえる。気配がすこしだけうごいてそこにお客さんがいることを感じさせる。リハでは起きなかった出来事が、今が本番なのだと思い出させる。
今は幕引きとして舞台袖にいるケーブルエンジニアが紐を引き、板付き【舞台の上】で待つみくと李衣菜の目の前に景色が現れた。
十人はいるだろうか。大勢のお客さんを目の前にしてみくは息を飲み込んだ。ゆっくりと吐きながら視線を李衣菜に送ると彼女もこちらを見ていた。
「ロックに行こう」
準備に入る前そう声を掛けてくれた彼女は、みくにうなずいてから客席を見て言った。

「聞いて下さい。さよならユグドラシル」

イントロを弾き始めた李衣菜のギターに客席から歓声が聞こえた。

「さよならユグドラシル
今はもう無い伝説」

そう歌い始めたみくは表情に隠せないほど焦っていた。
オケが聞こえない。リハではそれなりに聞こえてきていたのに。
耳に入ってきた李衣菜のギターに合わせて待つ。
李衣菜のギターは緊張のためかリズムが走ってしまっている、そうみくには感じた。
感じはしたけれど、オケが全く聞こえないので自分の感覚がおかしいのか、本当に走って行ってしまっているのかも判らなかった。
いや、今自分たちの演奏が全然リズムに合っていないのは目の前のペンライトの不揃い具合からいって間違いないだろう。
けれどオケが全く聞こえないのだから、みくはとにかく李衣菜のギターに合わせるより他に出来ることはなかった。

「さよならユグドラシル
今はもう無い伝説
丘の上見つめていた大木
思い出しながら進む」

ワンコーラス歌い終わったところで、みくは絶望を隠せない瞳で李衣菜をチラリと見た。
彼女も苦しい表情をしていた。
もうこれでおわりにゃ。
最後に客席を目に焼き付けておこうと視線を前に向けた瞬間、李衣菜の手が止まり、ギターの音が絶えた。
驚いて振り向く。
李衣菜は何か一点を見つめたままステージ上を前に進む。突然演奏を再開し、じりじりと自分の立ち位置に戻っていく。視線は何かを見つめたままだった。
みくは彼女の視線をたぐっていき、何を見ていたのかを知った。
一人のファンが、胸の位置で青と赤のペンライトを小さく振っていた。
そうか。
オケを聞いて合わせてくれているんだ。
一旦目を閉じて息を吐く。
李衣菜のギターを聞きながらペンライトを見る。

「その日登った あの丘
いつもと違うランドスケイプ
光めぐる町並み 瞳に映る」

みくがツーコーラス目を歌い始める。客席はどよめきとペンライトとコールで答えた。

***

「余計なことしやがって」
全てのアイドルの出番が終わり、フロアに降りてきた老エンジニアが飲み終わったミネラルドリンクのボトルを握りつぶしていた男に話しかけた。
「何が?」
まるで閉じているように細い目を向けて男が聞いた。
「一組目の二人、あん時リズムとってただろ、お前」
「おやっさんもモニターカットとか大人げないなと思ってね。それくらいの魔法はいいでょう?」
「あの子達、アイドルの卵が自分で魔法を使えるようになる時までサポートする。それがこのライブハウス、LIVE IN MAGIC【魔法の中のライブ】の使命だっておやっさんもいつも言ってるじゃないですか」
PAブースに向かう途中だった若手エンジニアがそう援護したのを聞いて、老エンジニアは憮然とした表情のまま、
「ギャラを精算に行く」
と言って事務所に入った。
「あれだって、普通の子なら見つけられないと思うけどね」
笑顔の男が言った。
「ええ、おやっさんもよく判ってますよ、それは」
ステップにかけた足を戻して改めて歩み寄ってきた若手がそう答えた。
「久しぶりにこの箱から大物が出るかもしれませんね」
「だね。僕もあの子達にポイント入れたよ」
「――そうですか。何かもめそうですね、今日の精算会」
「違いない。内容自体はヒドかったからなあ」
そう言って男は細い目を更に細めて笑った。

***

二人は結局食が進まなかったのか、食後の苺パフェを食べないままテーブルの真ん中に置かれた封筒を無言で見つめていた。
「開けなよ」
「なんで私が。リーダーなんだから李衣菜が開けるにゃ」
「そんなときだけリーダーじゃん」
立ち上がって大きな声を出した李衣菜が、浴びた視線に赤くなりながらするすると座ってから、
「これで最後なの、認めたくないよ」
そう弱々しく言って視線を落とした。

あの水夫のようなエンジニアは、結局精算会でも何も言うことなく、前回と同じようにペラペラの封筒を二人に渡した。
今日のパフォーマンスのひどさは当然自分たちが一番判っている。

正解はギターの追加は諦めて、当て振りでやること。
そもそも最初の計画時点でエレキの使用を忘れずに申請することだ。
冷静になった今だったら絶対に選ばない選択があの時頭に浮かんでしまったのか。
そんな思いが二人を黙らせた。

決められた条件で最高のパフォーマンスを出すのがプロだって、ステージ二回目だった二人にだってわかっていたはずだ。そもそも色々なライブハウスを回り回ってやっと出演出来たあのライブハウスで、まだまだこれからと言うときにこの失態。
まるで自分の膝を見ているように完全に顔を下に向けてしまっている李衣菜を見て、みくは一瞬ためらったあとテーブルの上の上の封筒に手を伸ばした。封筒には当然のようにギャラは入っていなかった。けれど精算書の他にもう一枚、何か書類が入っていた。

「に゛ゃ」

思わず変な声が出た。驚いて顔を上げた李衣菜に封筒の中に添えられていた書類を見せる。

「LIVE IN MAGIC 優先出演権争奪ライブエントリーシート?」
目の前に突き出された紙を読み上げる。
「これって――」
書類を持った手を引っ込めた代わりに顔を突き出して答える。
「そう、また――」
大声出しそうになったみくは、慌てて手を伸ばした李衣菜に口を塞がれた。
「また歌えるんだぁ」
噛みしめるように呟いた李衣菜に口を塞がれたまま、みくは首を縦に振った。