「神慮の機械さんのデレマス二次創作小説を勝手にベースにして書いた三次創作小説」と言うの名の習作

年明け早々熱出してしまいまして。
公私ともにリカバリーするのに時間がかかっていしまいました。どっとはらい。

さて、神慮の機械さんのデレマス本。まさかの劇中劇?というか、実在アイドル界の定番、役名=実名で本人イメージを引用しつつ本人では無い役の出演するドラマですよ。萌える。
そして添えられた雑誌の特集記事。燃える。

で、今回は感想というよりは設定をお借りして、ライブ中のダンス表現についての習作を描いてみようという企画です。真っ向勝負じゃ勝てる気は全くしないので、前回は視点を変えて観客側を書いてみる感じだったのですけど。どうせ勝てないから自分流表現の研究しちゃおうかなと言うノリで。

例によって神慮の機械さん、維如星先生の構想とは全く無関係です。シチュエーションとキャストと作中の歌詞をお借りしております。(勝手に)

(まさに)一幕劇なのでプロットを頭の中だけ練り、文字に書かずに本文を執筆しています。
面白くなかったらごめんなさい。それは佐倉の責任です。

言い訳済んだところで。

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幕が開いた。

目の前に広がるペンライトの海。私たちの航海を祝福していない海。
センターには本来の出演者と同じチームだけれど本来このユニットに入るはずのないメンバー。上手【かみて】の私と下手【しもて】のあの子はチームメンバーですらない。
神妙な顔をしているはずのこのテンポラリユニットのセンターが、感情を込めてとつとつと訴えかける演説は、同じように神妙な表情で彼女の背中を見つめる私の耳には引っかかりもせずに通り抜けていく。

私だってアンダーなんかやりたくないんだ。
本当にそうだろうか。
心の底では誰かがLOSTしていくのを待っているのではないか?
いやちがう。本当はそんなことをしたくはないんだ。
私たちの本来のユニットで、どこかの箱の優先権さえとれれば、私たちはそれで……。

前川みく。
私の名前が聞こえ、まるで遺伝子に刻まれたように礼をする。頭を上げると海は一部欠け始めていた。
多田李衣菜。
相棒の名前と少し空気の動く気配。
海の底がさざめく。

今日が優先枠争奪ライブの代役【アンダー】で良かった。それが正直な感想だった。
私たちにとってそれが日常とは言え、時に悪意のこもった視線を浴びるのは辛い。
たとえ好意的な箱だとしても、自己紹介に添えるちょっとしたネタなんてこの暮らしをしていたらそんなにあるもんじゃなかった。

アイドル。
物心着く頃には世の中から抹殺されていた存在。
つい数年前までは本当に禁止されていた存在。
私がネットの奥から見つけてきた宝石。先達という遠い遠い灯台。

でも目指した輝きが、私たちの航路の先に本当にあるのか。それさえも私には分からなかった。
あすには私も、本来ここに立っているはずだった三人、Lアイズの三人の様に何も掴めないままこの海から引きずり揚げられ、現実世界という港に引き上げられているかもしれない。

「聞いて下さい。六番目の未来」
口上は終わり、曲名が紹介される。一瞬の沈黙。きっかけを拾ったハウス・エンジニアがオケをながし始める。

このライブハウスの優先権を持っているグループのアンダーだから、私たちが舞台に上がるのは最後【トリ】。出演順と逆に行われる、つまり今日最初行われたリハには、急遽呼ばれた私たち二人は出られなかった。それは依頼を受けたときには判っていた事だ。
けれど私が楽屋に入ったとき、李衣菜は楽屋に落書きされた今は大御所となったビジュアルバンドが駆け出しの頃に書いたサインを次々と携帯で写している最中だった。
もちろん私たちがこの箱に出るのはもう何回目か判らない。そのサインだって前から目に入っていたはずだけど、自分が今まで「気がつかなかった」事は棚に上げて、価値が理解できない私を常識が無いように言う。

結局こうして板につく【舞台に上がる】まで三人はもちろん、二人で手振りを合わせることさえ出来なかった。

ハイハットのカウントに続いて流れてきた音。始まったイントロは全部で一六小節。最初二小節はセンターのソロダンス。続いて下手とのペアダンス。最後四小節がトリオ。
三小節四拍目。私はターンの事前動作としてハンドマイクを持った手を胸の高さに上げ、足を一歩ずらしてクロスする。
ターンの途中、最後まで客席に残した視線を閉じ首を素早く回して目を開ける。
黄色にさざめいて始まり、一部が漆黒に沈んでいた海には所々赤と青が、私たちの色が浮き上がり、残りには白が浮かび上がっていた。
ここには戦友がいた。
その光と声は追悼の鎮魂歌。どの色もセンターだけでなく相方の名前も私の名前も呼んでいる。本当は叫びたかった名前が他にあるのに。それでも今ここにいる私たちの名前を。
私は表情に出さないように我慢した。
戦友が涙声を隠しもせずに投げかけてくれた好意に私たちが返せることは。彼女たちが守るべきだったこの場所を、出来なかったその望みをそのアンダーとして叶える事だけだった。

Aメロ。
歌い出しはセンター。
手を顔の前にかざし視線を右下に落とす。同時にマイクを右に持ち替える。
四小節リズムをとる。
前に歩きながら
「ずっと眠っていた」
と両サイドの私たちが歌う。
一歩下がったセンターの肩に上手【かみて】下手【しもて】の両方から片手をかける。
「光で世界が消し飛ぶその日まで」
三人でそのまま下がりながら歌う。

まるでパーマネントユニットのように同期した三人の筋肉が、声を腕を足を、正確に空間に置いていく。
客席からの反応を巻き込んで完成する時間芸術。
その一部を記録することは出来ても、全てを、その魂を記録することは出来ない。
かつて私が憧れた景色はもうすでに目の前にある。私の中のアドレナリンはそう示していた。

いくつかの動線の先、歌詞が二番に進む頃。
舞台中央でせつなく歌い上げる李衣菜の後ろで二人が踊る。彼女が振り向きこちらに向かう一瞬前にはもう一人は下手に向かって歩き出しマイクを上げた。
残った私は腕を振りながらサイドステップをして李衣菜をむかえる。客席に背を向け、肩を落としてこちらに歩いてきた彼女は私に視線を送ってから突然変顔をした。
やられた。そう思ったけれど、ここで吹き出すわけにはいかなかった。少しでも表情を崩そうものなら単純に私がミスをしたように見えてしまう。私は何も見なかったことにして、ぴくりとも表情を変えずに踊り続けた。
横に並び、私と同じ動作を始めた李衣菜は悲しげな表情で踊りながらオフマイクで、
「よく耐えたね」
と他人事のように言った。
それは恒例の、この場を支配するのは歌ではなくて自分たちなのだと確認する、ちょっとした儀式だった。
「こちらもプロだからにゃ」
客席に背を向けるタイミングでそう言って笑った。
「知ってる」
そう答えた相方の強心臓が私には羨ましく、そして心強かった。

落ちサビ。
三人はそれぞれ視線を交差させて手を伸ばしながら客席に訴える。
「取り返せない日々はない。その静かな水面が砕けても、虹色の光のしずくは再び世界をきらめかせる」
三人が白玉【長音】を延ばし終わったとき、オケが無音になり一瞬時が止まる。

「乱反射する光の世界で、戻れない、戻らない、水のそこで眠っていた、あの頃よりも」
私はソロでそう歌う。それは十年の時を超えて私に輝きを教えてくれた先達へのメッセージ。
あの時のきらめきが確かに今ここに繋がっていることを声高らかに宣言する信号灯【シグナル】。
オケがなり、再び音を取り戻した舞台の上で、三人は大サビを歌いあげ、舞台中央前に進む。目の前のきらめく海に手を差し伸べ、そしてそのまま天に掲げた。
曲が終わる。けれどまだ作品は完成しない。

一瞬の永遠が過ぎ、拍手と声援を浴び、三人は元気よくお礼を叫んで頭を下げた。そしてそのまま舞台に手を振りながら下手【しもて】にはけた。
「ありがとうございました」
幕を閉じる為、舞台袖に控えていたPA【パブリックアドレス】に三人が挨拶をし終わったとき、その日の作品は完成した。
みくと李衣菜はお互いに支え合うように抱き合ったまま楽屋に戻った。